「夜10時を過ぎても給料は同じ」「日曜日に出勤しても手当がつかない」 ——そんな経験はありませんか?
労働基準法は、深夜(22時〜翌5時)の労働と法定休日の労働に対して、通常の賃金に上乗せした「割増賃金」の支払いを会社に義務づけています。割増賃金は、残業代と重なることで最大175%にもなります。
この記事では、深夜割増・休日割増の仕組みを具体的な計算例を示しながら、弁護士が詳しく解説します。
こんな状況に心当たりはありませんか?
未払い割増賃金チェックリスト
- 夜10時を過ぎても残業しているが、深夜手当が出ていない
- 日曜日に出勤しても、平日と同じ賃金しかもらえない
- 「休日出勤手当」が出ているが、金額の根拠がわからない
- 夜勤シフトがあるが、深夜割増が正しく計算されているか不安
- 給与明細に「深夜手当」「休日手当」の項目がない
1つでも当てはまれば、割増賃金が正しく支払われていない可能性があります
割増賃金の全体像
まず、労働基準法が定める割増賃金の種類を確認しましょう。割増賃金には大きく3つの種類があります(労働基準法37条)。
| 種類 | 条件 | 割増率 |
|---|---|---|
| 時間外割増 | 1日8時間 or 週40時間を超えた労働(法37条1項) | 125% |
| 深夜割増 | 22:00〜翌5:00の労働(法37条4項) | 125% |
| 休日割増 | 法定休日(週1回)の労働(法37条1項、法35条) | 135% |
深夜割増(125%)は、時間外割増・休日割増のどちらとも重ねて適用できます。たとえば「残業が深夜に及んだ」場合、時間外125%に深夜分が加算され、合計150%になります。
一方、時間外割増と休日割増は重ねがけできません。法定休日の労働には休日割増(135%)のみが適用され、8時間を超えても時間外割増は加算されません。
深夜割増とは(22時〜翌5時)
深夜割増は、午後10時(22:00)から翌朝5時(5:00)までの時間帯に働いた場合に、通常の賃金の125%以上を支払う制度です(労働基準法37条4項)。
深夜割増は、所定労働時間内の労働か残業かを問わず、深夜帯に働いた時間すべてに適用されます。ただし、所定労働時間内か残業かによって、最終的な割増率は異なります。
ケース1:夜間の長距離運行(所定内の深夜労働)
出庫:21:00 帰庫:翌6:00(休憩1時間、実働8時間)
日給:6,400円(時給換算 約853円)
長距離手当(歩合給):12,000円
深夜帯:22:00〜翌5:00(7時間)
月給部分の深夜割増(7時間):
853円 × 0.25(割増率125%のうち、日給に含まれる100%を除いた差額分)× 7時間 = 1,493円
歩合部分の深夜割増(7時間):
歩合単価(12,000円÷8h=1,500円)× 0.25(差額分)× 7時間 = 2,625円
この日の深夜割増合計:4,118円(月20日なら月約8万円の未払いに)
夜間の長距離運行など、もともとの業務が深夜帯に設定されている場合でも、深夜帯の労働時間には割増率125%が適用されます。1日8時間以内であっても深夜割増は発生します。ドライバーのように歩合給がある場合は、月給部分と歩合部分それぞれに深夜割増を計算します。
ケース2:残業が深夜に及んだ場合
所定労働時間:9:00〜18:00(休憩1時間、実働8時間)
実際の退勤:24:00(6時間残業)
時給換算:2,000円
残業・深夜前(18:00〜22:00)の4時間 :
2,000円 × 1.25(時間外125%)× 4時間 = 10,000円
残業・深夜帯(22:00〜24:00)の2時間 :
2,000円 × 1.50(時間外125% + 深夜25%分)× 2時間 = 6,000円
この日の残業代:16,000円(深夜割増がなければ15,000円 → 深夜分 1,000円の差)
残業が22時を過ぎると、時間外割増(125%)に深夜割増分が加わり、合計150%になります。会社が「残業代は払っている」と言っても、深夜割増分が漏れていることがよくあります。
残業代として時間外割増(125%)は支払っていても、22時以降の深夜割増分が加算されず、本来150%のところ125%しか支払われていないケースがあります。給与明細に「深夜手当」や「深夜割増」の項目がない場合は、確認が必要です。
休日割増とは(法定休日の労働)
休日割増は、法定休日に働いた場合に、通常の賃金の135%以上を支払う制度です(労働基準法37条1項)。
「法定休日」と「所定休日」の違い
休日割増を理解するうえで最も重要なポイントは、すべての休日に135%の割増率が適用されるわけではないということです。
| 種類 | 具体例 | 割増率 |
|---|---|---|
| 法定休日 | 週1回の休日(多くの会社で日曜日) | 135% |
| 所定休日 | 土曜日・祝日など会社が定める休日 | 100%〜125% ※週40時間超の部分のみ125%。超えなければ100%(割増なし) |
労働基準法35条が求める「休日」は週1回(または4週4日)です。多くの会社では日曜日を法定休日としています。土曜日などの所定休日に出勤した場合、135%の休日割増は適用されません。その週の労働時間が40時間を超えた部分は「時間外労働」として125%の割増率が適用されますが、週40時間を超えなければ法律上の割増義務はありません。
就業規則や労働条件通知書に法定休日が明記されていない場合でも、週1回の休日は法律上確保されなければなりません。どの日が法定休日にあたるかは就業規則の定めや会社の運用によって異なりますので、弁護士にご相談ください。
ケース3:日曜日に出勤した場合
法定休日:日曜日
出勤時間:10:00〜19:00(休憩1時間、実働8時間)
時給換算:1,500円
法定休日労働(10:00〜19:00)の8時間 :
1,500円 × 1.35(休日割増135%)× 8時間 = 16,200円
この日の休日割増:16,200円
法定休日の労働は、1日8時間を超えても時間外割増は加算されず、休日割増(135%)のみが適用されます。時間外割増(125%)とは別の扱いです。ただし、深夜帯に及んだ場合は別途加算されます(後述)。
ケース4:土曜日に出勤した場合
月〜金の勤務:1日8時間 × 5日 = 週40時間
土曜出勤:9:00〜15:00(休憩なし、実働6時間)
時給換算:1,500円
すでに週40時間を消化しているため、
土曜の6時間はすべて時間外労働 :
1,500円 × 1.25(時間外125%)× 6時間 = 11,250円
この日の残業代:11,250円
土曜日は「所定休日」であり、法定休日ではありません。135%の休日割増は適用されず、週40時間を超えた部分が125%の時間外割増の対象になります。
月60時間超えの割増率引き上げ
2023年4月から、中小企業を含むすべての企業に対して、月60時間を超える残業の割増率が125%から150%に引き上げられました(労働基準法37条1項ただし書)。
大企業には2010年からすでに適用されていましたが、中小企業には猶予措置が設けられていました(旧労働基準法138条)。2023年4月1日をもってこの猶予措置が終了し、企業の規模を問わず月60時間超の残業には150%の割増率が適用されます。
月の残業時間:70時間
時給換算:1,500円
60時間まで : 1,500円 × 1.25 × 60h = 112,500円
60時間超の10時間 : 1,500円 × 1.50 × 10h = 22,500円
月の割増賃金 :135,000円
(改正前は60h超も125%だったため 131,250円 → 差額 3,750円/月)
月の残業が多い方ほど、この規制の影響は大きくなります。たとえば月80時間の残業がある場合、60時間超の20時間分で毎月15,000円(時給1,500円の場合)の差が出ます。2023年4月以降の未払いがある場合は、遡って請求できます。
割増が重なる場合の計算
実務上よく問題になるのが、深夜割増と他の割増が重なるケースです。割増率がどのように加算されるか、具体例で確認しましょう。
出勤:8:00 帰庫:翌1:00
休憩:合計2時間 実働:15時間
時給換算:1,800円
残業・通常(17:00〜22:00)5時間 :
1,800円 × 1.25(時間外125%)× 5h = 11,250円
残業 + 深夜(22:00〜翌1:00)2時間 :
1,800円 × 1.50(時間外125% + 深夜25%分)× 2h = 5,400円
この日の残業代:16,650円(深夜割増がなければ15,750円 → 深夜分 900円の差)
残業が22時を超えると、時間外125%に深夜分が加わり150%になります。
法定休日(日曜)に出勤
勤務時間:14:00〜24:00(休憩1時間、実働9時間)
時給換算:1,500円
法定休日・通常帯(14:00〜22:00)8時間 :
1,500円 × 1.35(休日135%)× 8h = 16,200円
法定休日 + 深夜帯(22:00〜24:00)1時間 :
1,500円 × 1.60(休日135% + 深夜25%分)× 1h = 2,400円
この日の休日・深夜割増合計:18,600円(深夜がなければ18,225円 → 深夜分 375円の差)
法定休日に深夜まで働くと、休日135%に深夜分が加わり160%になります。
2023年4月から、すべての企業で月60時間を超える残業に対する割増率が150%に引き上げられました。これに深夜割増が重なると、最大の割増率になります。
月の残業時間:80時間(うち60時間超の20時間が深夜帯)
時給換算:2,000円
60時間までの残業 :
2,000円 × 1.25(時間外125%)× 60h = 150,000円
60時間超 + 深夜の20時間 :
2,000円 × 1.75(60h超150% + 深夜25%分)× 20h = 70,000円
月の割増賃金合計:220,000円(深夜なしなら210,000円 → 深夜分 10,000円の差)
月60時間超の残業が深夜に及ぶと、175%という最大の割増率が適用されます。長時間労働が常態化している方は、この部分の未払いが大きな金額になることがあります。
割増率の組み合わせ一覧
| 労働の種類 | 内訳 | 割増率 |
|---|---|---|
| 通常の残業 | 時間外 125% | 125% |
| 残業 + 深夜 | 時間外 125% + 深夜 +25% | 150% |
| 月60時間超の残業 | 時間外 150% | 150% |
| 月60時間超 + 深夜 | 時間外 150% + 深夜 +25% | 175% |
| 法定休日 | 休日 135% | 135% |
| 法定休日 + 深夜 | 休日 135% + 深夜 +25% | 160% |
深夜手当や休日手当が正しく支払われているか不安な方へ
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歩合給(出来高払い)の場合
ドライバーや営業職など、歩合給(出来高払い)で働いている場合、月給制とは割増賃金の計算方法が異なります(労働基準法施行規則19条1項6号)。
歩合給の割増率が低い理由
歩合給は「働いた時間すべてに対する対価」として、すでに支払われたものとされます。そのため、割増賃金として追加で支払うのは割増部分(差額)のみです。
| 種類 | 月給の割増率 | 歩合給の割増率 |
|---|---|---|
| 時間外 | 125%(1.25倍) | 25%(0.25倍) |
| 深夜 | 125%(1.25倍) | 25%(0.25倍) |
| 法定休日 | 135%(1.35倍) | 35%(0.35倍) |
| 60時間超 | 150%(1.50倍) | 50%(0.50倍) |
月の歩合給(長距離手当等):200,000円
月の総労働時間:220時間
歩合部分の時間単価:200,000円 ÷ 220h = 約909円
時間外労働:50時間 深夜労働:30時間
法定休日労働:8時間
時間外(差額のみ): 909円 × 0.25 × 50h = 11,363円
深夜(差額のみ): 909円 × 0.25 × 30h = 6,818円
法定休日(差額のみ): 909円 × 0.35 × 8h = 2,545円
歩合部分の未払い割増賃金 :20,726円/月
歩合給だけで見ると金額は小さく感じますが、これに月給部分(基本給)の割増賃金が加算されます。また、歩合部分の未払いが36か月分溜まれば約75万円になります。
解決事例
当事務所が取り扱った残業代請求事件のうち、深夜割増・休日割増が問題となった事例をご紹介します。
長距離運行のため深夜帯の労働が多いにもかかわらず、深夜割増が一切支払われていなかった事例。裁判上の和解により、2名合計で750万円を回収しました。
固定残業代が無効と判断された事例。早朝5時からの仕込み作業に対する深夜割増賃金も含めて、裁判上の和解により280万円を回収しました。
割増賃金請求に必要な証拠
深夜割増・休日割増の未払いを請求するには、「いつ」「何時から何時まで」働いたかを証明する証拠が重要です。
- タイムカード・勤怠記録:出退勤時刻の記録
- 運転日報(ドライバーの場合):出庫・帰庫時刻、運行記録
- デジタコ・GPS記録:車両の運行データ
- パソコンのログイン/ログアウト記録:事務職の場合
- メール・チャットの送信時刻:深夜や休日の業務連絡
- 給与明細・賃金台帳:支払われた割増賃金の確認
- 就業規則・労働条件通知書:法定休日の特定、所定労働時間の確認
手元に証拠がなくても、弁護士から会社に対して勤怠記録や賃金台帳の開示を求めることができます。会社には賃金台帳を3年間保存する義務があり(労働基準法109条)、開示を拒否することは困難です。
よくある質問
いいえ。労働基準法上の管理監督者であっても、深夜割増賃金(22時〜5時の125%)は支払いが必要です。時間外・休日の割増は適用除外されますが、深夜割増は除外されません。さらに、「管理職」とされていても実態が管理監督者に該当しない場合は、時間外・休日の割増賃金も全額請求できます。
土曜日が「所定休日」であり「法定休日」でない場合は、135%の休日割増は適用されません。その週の労働時間が40時間を超えていれば、超えた部分は125%の時間外割増の対象になります。ただし、週40時間を超えていなければ、法律上の割増義務は発生しません。
「夜勤手当」が深夜割増賃金として支払われている場合もありますが、金額が法律の定める割増率125%に満たない場合は差額を請求できます。また、夜勤手当が何時間分の深夜割増に相当するか不明確な場合は、固定残業代と同様に無効となる可能性があります。
3年間遡って請求できます(労働基準法115条)。たとえば2026年2月に請求する場合、2023年2月分以降の未払い残業代が対象になります。退職後でも3年以内であれば請求できますが、時効で消えていく分もありますので、早めの相談をお勧めします。
初回相談は無料です。完全成功報酬制ですので、回収できた金額から報酬をいただく仕組みで、初期費用は原則かかりません。深夜割増・休日割増の未払いは金額が大きくなることが多く、費用倒れのリスクは低い類型です。