こんなことで困っていませんか?
- 長時間拘束なのに、残業代がほとんど支払われない
- 業務中の物損事故で、修理代を全額請求されている
- 念書に署名させられ、毎月の給与から修理代を天引きされている
- 物損の賠償をしないと退職させないと言われている
このような状況でお悩みの方は、実は多額の未払い残業代を取り戻せる可能性があります。
本事例では、約3年分の運転日報から労働時間を正確に算定し、日給制・歩合給・深夜労働・月60時間超など複雑に絡み合う計算要素を一つ一つ解きほぐした結果、残業代約165万円の満額回収に成功しました。さらに、物損事故の全額賠償請求を7割カットさせた経緯について、弁護士が詳しく解説します。
依頼者プロフィール
長時間拘束なのに残業代は数千円、さらに物損事故の修理代も全額請求
残業代がほとんど出ない賃金体系
ご相談者様は、運送会社で長距離トラックドライバーとして約3年間勤務されていました。長距離運行では、早朝から深夜まで20時間を超える拘束も珍しくありません。しかし、給与明細に記載される時間外手当はわずか数千円程度でした。
月の総支給額は30万円以上でしたが、その大部分は行先ごとに変動する「長距離手当」などの歩合給で構成されており、基本給は極めて低く設定されていました。「この賃金体系では、どれだけ長時間働いても残業代が出ない仕組みになっているのではないか」という疑問を抱えていました。
「月に30万以上もらっていたので、残業代が出ていないとは思っていませんでした。でも、よく見ると大部分は行先ごとの手当で、基本給は驚くほど少なかった。20時間以上拘束されても、残業代は数千円。おかしいと思いながらも、どう計算すればいいのか分かりませんでした。」
物損事故の全額賠償と給与天引き
さらに深刻だったのは、業務中に起こした物損事故(自損事故)の問題です。トラックを破損してしまい、修理代の全額を負担するよう会社から求められました。
- 上司立会いのもとで「全額賠償する」旨の念書に署名を余儀なくされた
- 毎月の給与から定額を天引きされていた
- 署名を拒否できる雰囲気ではなく、「仕事をさせない空気」を感じた
- 退職時に残額を一括請求されるのではないかという不安が退職への障壁に
解決までの流れ
ご相談者様は、在職中から物損事故の問題を抱えており、会社からは退職時に物損の残額を最終給与から天引きして相殺すると言われていました。そこで、退職前の段階から以下の助言を行いました。
- 給与からの天引き(相殺)は労働基準法に違反する ― 会社が最終給与から物損の残額を差し引くことは認められない
- 退職時に不利な書面に安易に署名しないこと ― 「全額を支払う」「異議を述べない」などの合意書・清算書類には応じない
- 会社から書面への署名を求められたら、「その件は弁護士に相談したいと思います」と伝えて、その場を立ち去ってよい
退職時は、会社から不利な条件を突きつけられやすいタイミングです。「最終給与から差し引く」「残額を一括で支払え」「この書面にサインしてから辞めろ」などと迫られることがあります。退職前に弁護士の助言を受けておくことで、不利な書面への署名を回避し、その後の残業代請求を有利に進めることができます。
退職後、正式に受任し、給与明細や労働条件通知書を詳細に分析したところ、以下の問題が判明しました。
- 基本給は日給制で、極めて低額に設定されている
- 「長距離手当」は行先ごとの歩合給(出来高給)として支給されている
- 賃金規程には「長距離手当に含まれる時間外労働割増賃金は差し引く」との記載がある
- しかし、通常の賃金部分と割増賃金部分の区別が不明確
最高裁判例上、割増賃金が他の賃金と明確に区分されていなければ、「残業代込み」の主張は認められません。本件では、歩合給のうちどの部分が通常の賃金で、どの部分が割増賃金なのかが不明確であったため、歩合給に残業代が含まれているとの会社の主張は法的に認められないと判断しました。
本件では、タイムカードは存在しませんでしたが、会社からデジタルタコグラフ(デジタコ)に基づく運転日報が開示されました。この日報には、労働時間が所定内時間・所定外時間(時間外)・所定内深夜時間・所定外深夜時間などに区分されて記載されていました。しかし、定型的な書式ではなく、市販の残業代計算ソフトにそのまま入力できるものではありませんでした。
そこで、約3年分・900日を超える運転日報の1日ごとに、始業時刻・終業時刻・休憩時間を読み取り、労働時間を正確に算定しました。さらに、以下の複雑な計算要素を一つ一つ手計算で処理しました。
- 1日8時間超過の時間外労働の月ごとの集計
- 週40時間超過の時間外労働の算定
- 深夜労働時間(22時〜翌5時)の所定内・所定外の区分
- 休日労働(法定休日の労働)の割増計算
- 月60時間を超える時間外労働の割増率の切替え
- 1年単位の変形労働時間制の法的有効性の検討
- 歩合給部分の割増賃金の計算
この精緻な計算の結果、約3年分で約165万円の未払残業代が発生していることを明らかにしました。
物損事故について、最高裁判例(茨城石炭商事事件・昭和51年7月8日判決)に基づき、以下の法的主張を行いました。
- 使用者から労働者への損害賠償請求は、「信義則上相当と認められる限度」に制限される
- 多数のトラックを保有する運送事業者は、業務中の事故リスクを保険等によって分散すべきであり、個人に全額を負わせることは不当
- 給与からの一方的な天引きは労働基準法24条(全額払いの原則)に違反
内容証明郵便の送付後、会社側は弁護士を通じて、物損事故の損害賠償と残業代を相殺したいと主張してきました。
しかし、精緻な残業代計算と最高裁判例に基づく法的根拠を示しながら粘り強く交渉した結果、訴訟に至ることなく裁判外の交渉のみで解決に至りました。
会社側は、当方が算定した残業代の金額に対して実質的な反論ができず、正確な計算に基づく請求であったことが、交渉を有利に進める大きな要因となりました。内容証明の送付から約半年での早期解決です。
残業代計算の仕組み ― 本件の計算はなぜ複雑だったのか
本件の最大のポイントは、残業代の正確な算定にあります。運送業では、歩合給・深夜労働・変形労働時間制など、複数の計算要素が絡み合い、一般的な計算ソフトでは対応できないことが少なくありません。以下、労働基準法に基づく計算の仕組みを解説します。
1. 日給制と歩合給(出来高給)の混在
本件の賃金は、日給制の基本給と、行先ごとに変動する歩合給(長距離手当)の2本立てでした。労働基準法上、残業代の計算方法はこの2つで異なります。
日給額 ÷ 1日の所定労働時間 = 1時間あたりの単価
1時間あたりの単価 × 割増率 × 時間外労働時間数
歩合給の月額 ÷ その月の総労働時間 = 1時間あたりの単価
1時間あたりの単価 × 割増率 × 時間外労働時間数
※ 歩合給の場合は基礎賃金(100%部分)が既に支払済みのため、割増部分(25%等)のみを加算します
基本給部分は「1日の所定労働時間」で割り、歩合給部分は「その月の総労働時間」で割るという違いがあります。つまり、月ごとに歩合給の単価が変動するため、毎月個別に計算する必要がありました。
2. 3つの割増賃金が積み重なる仕組み
長距離ドライバーの残業代は、以下の3つの割増が複雑に積み重なります。
この割増の重複が、本件の計算を複雑にする最大の要因でした。たとえば、22時以降に残業をした場合、時間外割増(+25%)と深夜割増(+25%)が同時に加算され、基本給の150%(=100%+25%+25%)の賃金が必要になります。
3. 所定内深夜と所定外深夜の違い
深夜時間帯の労働であっても、それが所定労働時間内か時間外かによって、支払われる割増賃金の率が大きく異なります。
もともとのシフトが深夜時間帯にかかっている場合。
基本給100%+深夜割増25%=125%の賃金が発生します。
残業が深夜時間帯に及んだ場合。
基本給100%+時間外25%+深夜25%=150%の賃金が発生します。
長距離ドライバーの業務では、出発時刻や到着時刻が日によって異なるため、深夜労働が所定内か所定外かを1日ごとに判定する必要がありました。
4. 月60時間超の割増率切替え
労働基準法では、1ヶ月の時間外労働が60時間を超える部分については、割増率が25%から50%に引き上げられます(労働基準法37条1項ただし書)。
長距離ドライバーの場合、月の時間外労働が60時間を超えることは珍しくありません。以下の例で、割増率の切替えがどのように影響するかを見てみます。
60時間までの部分(125%)
1,000円 × 125% × 60時間 = 75,000円
60時間を超えた部分(150%)
1,000円 × 150% × 20時間 = 30,000円
※ もし全部125%なら100,000円。60時間超の切替えにより5,000円増加
この割増率の切替えを月ごとに正確に適用することも、計算上の重要なポイントでした。さらに、この60時間超の部分が深夜帯にかかる場合は、150%(時間外)+ 25%(深夜)= 175%の賃金が発生します。
5. 具体的な計算例 ― 1日の勤務で割増が重なる仕組み
たとえば、時間単価1,000円のドライバーが、ある日17時から翌3時まで10時間勤務をした場合を考えてみます。
深夜割増(22:00〜翌3:00 = 5時間)
1,000円 × 25% × 5時間 = 1,250円
時間外労働の賃金(翌1:00〜翌3:00 = 2時間)
1,000円 × 125% × 2時間 = 2,500円
※ 8時間を超えた分は日給に含まれないため、基本給(100%)+割増(25%)= 125%で支払い
※ 翌1:00〜翌3:00の2時間は、時間外125%+深夜25%=150%の賃金が発生
このように、1日の勤務の中でも時間帯ごとに適用される割増率が異なります。
月曜〜土曜の6日間、毎日7時間ずつ勤務した場合(1日8時間は超えていない)
週40時間超過の割増(2時間分)
1,000円 × 25% × 2時間 = 500円
※ 1日8時間超過分(所定外時間)とは重複してカウントしません。
休日労働の賃金(9時間全体)
1,000円 × 135% × 9時間 = 12,150円
※ 法定休日は8時間を超えても135%のまま(時間外割増への上乗せは発生しない)
深夜割増(22:00〜翌2:00 = 3時間)
1,000円 × 25% × 3時間 = 750円
※ 22:00〜翌2:00の3時間は休日135%+深夜25%=160%の賃金が発生
その月の時間外労働が既に65時間に達した日の夜、22時から翌1時まで3時間の残業をした場合
月60時間超の時間外労働の賃金(3時間分)
1,000円 × 150% × 3時間 = 4,500円
深夜割増(3時間分)
1,000円 × 25% × 3時間 = 750円
※ 時間外150%+深夜25%=175%。通常の深夜残業(150%)より更に高い賃金が発生
本件では、このような計算を約3年分・900日超にわたり行い、さらに歩合給部分の割増計算も加えました。日給制の割増、歩合給の割増、深夜・休日・月60時間超の各割増率――これらを1日ごと・1ヶ月ごとに正確に積み上げ、すべてを合計して請求しました。市販の計算ソフトでは対応できない計算を、労働基準法の正確な知識に基づき一つ一つ処理した結果、会社側は算定額に対して実質的な反論ができず、残業代約165万円の満額合意に至りました。
物損事故と労働者の権利 ― 全額賠償は不当
業務中の物損事故について、会社から修理代の全額を請求されるケースは運送業で少なくありません。しかし、法律上、労働者が全額を負担する必要は原則としてありません。
損害の公平な分担(最高裁判例)
最高裁判所は、茨城石炭商事事件(昭和51年7月8日判決)において、使用者から労働者への損害賠償請求(求償)は、以下の事情を総合考慮し、「信義則上相当と認められる限度」に制限されると判示しています。
- 事業の性格・規模 ― 多数のトラックを保有する運送会社であれば、事故リスクは事業に内在するもの
- 業務内容・労働条件 ― 長時間拘束、深夜運行など過酷な労働条件で働かせている以上、一定の事故リスクは会社が負担すべき
- 損害防止・分散の配慮 ― 保険加入や安全教育など、会社側がリスクを分散する措置を講じていたかどうか
- 加害行為の態様 ― 故意や重過失でない通常の過失による事故であれば、全額賠償は不相当
過去の裁判例では、トラック運送会社からドライバーへの求償が損害額の25%程度に限定されたケースもあります。
給与天引きの違法性
さらに、給与からの一方的な天引き(相殺)は、労働基準法24条の「全額払いの原則」に違反します。会社が損害賠償債権を持っていたとしても、労働者の同意なく一方的に給与から差し引くことは認められません。
本件の交渉結果
(毎月の給与から天引き)
賠償額を7割減額で合意
会社側は当初、念書を根拠に物損の損害賠償と残業代の相殺を主張しました。しかし、上記の法的根拠を示し粘り強く交渉した結果、物損の負担を3割まで減額させることに成功しました。残業代は満額の支払いに合意し、物損分の控除を差し引いても大幅な経済的利益を確保しました。
念書に署名してしまった場合でも、会社からの全額賠償請求が認められるとは限りません。最高裁判例に基づき、損害の公平な分担の観点から、労働者の負担額は大幅に制限されます。また、給与からの一方的な天引きは労働基準法に違反します。一人で抱え込まず、早めにご相談ください。
結果
あなたにも当てはまるかもしれません
こんな状況に心当たりはありませんか?
- 長時間拘束されているのに、残業代がほとんど出ない
- 「手当に残業代が含まれている」と説明されている
- 歩合給が給与の大部分を占め、基本給が極端に低い
- タイムカードがなく、デジタコや日報しか記録がない
- 早朝や深夜の運行が多いが、深夜割増がきちんと払われていない
- 業務中の事故で修理代を全額請求されている
- 念書を書かされて、給与から天引きされている
- 退職したいが、物損の一括請求が怖くて辞められない
あなたも未払い残業代を請求できる可能性があります
この事例から学べる3つのポイント
本件では、約3年分の運転日報から労働時間を1日ずつ正確に算定し、日給制・歩合給・深夜労働・月60時間超などの複雑な計算要素を正確に処理しました。この精緻な計算が、会社側に実質的な反論の余地を与えず、残業代の満額回収につながりました。運送業の残業代計算は一般的な計算ソフトでは対応できないことが多く、労働基準法の正確な知識が求められます。
運送業では「長距離手当に残業代が含まれている」と説明されることがよくあります。しかし、最高裁判例上、割増賃金が通常の賃金と明確に区分されていなければ、この主張は認められません。賃金規程に「含まれる時間外労働割増賃金は差し引く」と記載されていても、具体的にどの部分が残業代なのかが不明確であれば、別途残業代を請求できます。
業務中の事故について、会社から修理代の全額を請求されても、法律上支払う必要があるとは限りません。最高裁判例に基づき、使用者から労働者への求償は「信義則上相当と認められる限度」に制限されます。念書を書かされた場合でも、給与からの一方的な天引きは労働基準法に違反します。物損の問題と残業代の問題は同時に解決できることが多いため、併せてご相談ください。
依頼者の声
いろいろとお時間作って頂き
ありがとうございました!
早く解決出来て本当に感謝してます!
ありがとうございました。